ついに手に入れた。念願のサムスンNX1だ。
NX1は日本未発売なのもあって、金だけ払えばいいというわけではなく、美品の入手が困難であった。
イーベイにもあまり出物がない。
サムスンはカメラメーカとしては老舗だったし、コンデジは結構なシェアがあったようだが、一眼では存在感を示せなかった(NX1を使用することで理由もなんとなくわかった)。
さて、私がほしかったレンズにNX 16-50 f2-2.8がある。
APS-Cの16mm始まりで、F2という大口径レンズ。
これを使いたいがためにもフラッグシップのNX1がほしかった(そもそも16-50 f2-2.8はNX1のキットレンズであった)。
さて、NX1はサムスン電子のカメラ部門の全力でつくられたレンズ交換式ミラーレスである。
当時、電機メーカーであるパナ、サムスン、ソニーは同時にミラーレス展開していたのだが、日本ではあまり知られておらず、私はサムスンの実力をずっと知りたかった。そして、その実力を知るにはフラッグシップでなければならないとも思ってきた。
たとえば、最近入手したE-M1Xであるが、これを100周年記念のフラッグシップとしてリリースしている時点でオリンパスのカメラ事業がもうすでに終わっていたことがわかる。
E-M1Xを発売日に買った人は、開封した時点でオリンパスの撤退を確信したと思う。
フラッグシップはそのときのメーカーの実力を知るにはうってつけだ。
α900もそういう意味では当時のソニーの実力がわかる。
α900は事実上ミノルタ最後のフラッグシップ(なにせ9ナンバーだからね)で、ファインダーに定評のあるミノルタがデジカメ時代に出した渾身のファインダーで伝説になっているが、一方、フルサイズ一眼レフとしてはコンパクトな感じがして、SONYはやはり一眼でコンパクト路線でいく気なのだなと思わせる。
また、ゴミみたいな画質(ハードウェアはよかった)のα700からの進化も感じられたし、のちに発売されたα77よりも画質がいい(フルサイズなのを差し引いても)。
EOS-1D X Mark3はキヤノンが一眼レフに引導を渡すために作成したのだな、とはっきりわかる。
発売後10年経っても使えるように発売時のキヤノンの技術のすべてが注がれている(キヤノンは出し惜しみが大好きだというのに)ように見える。
そして、たぶんF6のように10年経っても一眼レフのフラッグシップであり続けるのだろう。
同じようなものにオリンパスE-5がある。
E-5はその作りと写りから、フォーサーズに引導を渡たし、MFTの真のフラッグシップが出るまで(実際に2016年のE-M1M2を待たねばならなかった)はオリンパスのフラグシップとして君臨できるように設計されているように見えた。
さて、そのNX1である。
ある意味、NX1は1DX3やE-5と同様のものでもある。
なにせ、このあと(翌年)サムスンは撤退(公式発表なし)するのだ。
しかし、NX1が意欲作なのは間違いない。
まず、OSにはTizenを搭載している。
TizenはAndroidに対抗するためにサムスンが用意したモバイル向けOSである(普及せずに2022年に終幕。SONYのVitaOSと違い、Androidを打倒できた可能性は最初からないと思うが)。
さらにセンサーは裏面照射である。
裏面照射自体はハッブル宇宙望遠鏡にも搭載され、20世紀後半から存在したが、量産されたのは21世紀になってから、それもコンデジから(最新技術が投入されるのはいつもコンデジかフラッグシップでカメオタ向け製品ではないのが面白い)だ。
キヤノンはR3まで裏面照射の大型センサーの製造ができなかったことを考えると、ソニーと同時期なのは、さすがサムスンである。
肩液晶も搭載。EVFは有機EL。同時期のα77IIを凌ぐ15連射。4K撮影。防塵防滴。AFはハイブリッドAF。
盛りに盛られたスペックである。
・外観
サムスンはサムスンのカメラだとわかるようなデザインを心掛けているように感じる。
これはサムスンがデザインを重視してきた歴史(欧米の有名な工業デザイナーのヘッドハンティングをたびたび行ってきた)からそうなのだろう、とは思う。
一目でサムスンのミラーレスとわかるのはよいことだと思う。
またデザイン自体も悪くない。
ソニーのα(Eマウント機)よりも断然こっちがいいと思うが、左肩のニコンのパクリみたいな四葉は要らなかったと思う。あれかっこよくないんだよね……ダサい上につかいにくい。
カメオタは大好きだけど(E-M1シリーズもまねてるのでやめてほしい)。
・操作性
NXシリーズ共通なのかはわからないが、面白い操作性だなと感じたのがふたつ。
一つ目はAFポイント移動用のジョイスティックがないかわりに、リアダイアルと背面ダイヤルを使うということ。
リアダイヤルで左右に動き、背面ダイヤルで上下に動く(マッドキャッツのマウスみたいだ)。
AFポイントが少なかったころはジョイスティックでよかったのだが、最近のミラーレスは測距点数が増えすぎ、ジョイスティックでちまちまやるのが苦痛だったので、これはなかなかよい方法だと感じた。
さらに、ジョイスティックを廃止することで筐体が小さくでき、NX1は性能のわりにとても軽量コンパクトだ。
ただ、金属部材を使っているわりにチープである。このチープさがサムスンが結局一眼で存在感を示せなかった要因の一つだと思う。
もうひとつはi-functionである。
すべてのレンズに搭載されてはいないらしいのだが、これを押すことでリアダイヤルの文脈を変更できる。一回押せばISO、もう一回押せば露出補正というように。これは結構使いやすいと感じた。
ただ、ひとつ致命的にクソだなと思った操作性がある。
トラッキングがタッチAFでしか使えないのだ。マジで意味がわからなかった。
トラッキングがEVFを覗いた状態では選択できないのである。このあたりは、あとからも語るが、「コンデジ的なUI」の残滓であり、ハード面だけではなく、ソフトウェア面でのチープさに繋がっていく。
・ボディの質感
グリップは悪くないが、質感の良いカメラとは言えない。
1,500ドル(当時のレートなら17万くらい? 今だと23万くらいかな)するカメラとしては微妙だと感じた。
ただこの辺りは2014年製ということで、最近は富士フイルムX-S20のようにとんでもなくチープなカメラが15万くらいするので、次代を考慮しての話である。
・AF
AFは素早く正確である。
文句をつけるところなどない。
・EVF
2014年製だということを考慮しておくにせよ、非常に見やすい上質なEVFである。
当時としては最高レベルだったと間違いなく言えるし、10年後の今でも違和感なく、5年後に販売され倍の価格だったE-M1Xの方が酷いEVFである。
また、視度調節の範囲がとても広く、感心した。
私は視度が合わないことが多い。
・描画
2023年現在でも通用する描画力だ。連射も15コマなので通用する。
・ソフトウェアUI
ゴミ。
コンデジ的UIであり、非常に萎える。
また設定項目がとても少なく(20世紀初頭のカメラかと思うレベル)、カスタマイズ性も低く、フラッグシップとしての利便性などない。
先にも述べたようにトラッキングAFがEVFでは使えないなどの仕様になった原因の一端は、サムスンの客層がファミリー層だったせいだろう、とは思う。
外観デザインにはあれだけ拘っておいてこれでは萎える。
内装がワゴンRのベンツなんて誰も乗りたくない。
また、画像チェックする際の情報表示もクソで、他の日本メーカーは写真が隠れないように撮影情報を表示するのだが、画像にオーバライドして撮影情報を出すので、本当にイラつく。
ただ、ピント位置のインジケータが背面液晶に表示されるのはよいと思う。
もっとも、オリンパスのように何が何やらわからないメニューではないのは救いである。
設定可能な項目は少ないものの、何がどこにあるのか大変わかりやすいのはよい。
・ハードウェアUI
NX1はボタンが実に充実しており、そもそもメニューを開く必要がなく、ハードウェアボタンやダイヤルだけで撮影ができる。
何がいいって、3ダイヤルなのがいい(ニコンはなぜか2ダイヤルに拘泥するし、富士もH2になると操作部が減って使いにくくなるという意味わからんことになっている。先の四つ葉もそうだが、使いにくいUIをなんでいつまでも踏襲するんだろう??)。
i-Functionも使い勝手がいい。
サムスンがどの市場を狙ったのかはわからないが、韓国メーカーなので少なくとも国内は押さえておきたかっただろうし、NX1には日本語メニューが搭載されている(正規販売は結局なかったが)ため、日本市場進出も視野にあっただろう。
このことから、NX1はアジア人の手のサイズによく馴染むと思う。
私にはちょうどいい。キヤノンやニコンのカメラでは、グリップを握った状態ではダイヤルに指がかからないが、NX1では自然にかかるのだ。
・シャッターフィーリング
固くも無く柔らかくもない。
私はX-H1のフェザータッチは傑出した出来だと思うが、もちろんこれには及ばない。しかし、自然に押して、シャキっとレリーズされる。押している感が適度にあり、上質な部類だと思う。
・NXシステム
全体的には満足かといえば、思っていたよりも全然よい。
であるが、サムスンはボディとレンズは充実させたものの、フラッシュシステムがあまりよくなかった。
これはスチルカメラとしてはよくない傾向だった。
他にもアクセサリの類が全体的に不十分極まっている。残念だ。
数も全然出なかったようで、フラッシュの出物はほぼない有様であるし、サードも市場規模からして参入していなかったようだ。
今更マニュアル発光なんぞ使いたくもないし……。
・SDカードスロット
とにかく蓋が邪魔で取り出しにくいのひとことにつきる。イライラして仕方がない。
マジゴミ。
パナソニックのDMC-L1が取り出しにくかったのと酷似している。またダブルスロットではないのはある層には致命的だ。フラッグシップならダブルにしておくべきだった。
このあたりの細かい部分はミノルタを引き継いだソニーが頭一つ抜けていて、パナソニックは洗練されるまでに10年かかったし、サムスンはその前に撤退した。
・データの保存
中古品なので元来の不具合か不明だが、SDカードが読めない状態だった。
手持ちのSDをいくつか交換してみたところ、画像は記録されるのだが破損したファイルが生成されていたり、異様に読出しに時間がかかったり、そもそも画像が半分しか記録されていなかったりした。
信頼性という意味でこれはアウトなのではないか。
これまで中古カメラはたくさん扱ってきたがここが壊れているやつ(もちろん可動品の中では)はいまのところあたったことがない。
もちろん、SDを使うカメラでは、その使用するカメラでフォーマットしろというのは鉄則だが、私はこれまでそんなことは一回たりともしたことはなく、メーカーをまたぎ、機種をまたぎ、ときにはアダプタさえあいだに挟んできたが、こんなことはなかった。
サムスンは半導体メーカーだけに、これが互換性の低さだとしたら問題なんではないか。
ちなみにだが、ソニーのαもSDカードトラブルは多く、α77も認識しなくなったことがある。オリンパスや富士、ニコンではそのようなことは一切なかった(オリンパスはいつになっても電池残量が正しく表示されないが)。
・Wifi
2014年以降更新されていない関係でスマホアプリは使えず、実質意味がない状態になっている。
接触通信が可能だが、ワンタッチでWifiが起動できず、いちいちタッチ操作で接続する必要があり煩雑だ。これはNikon1のワンタッチWifiボタンのようなものが欲しいところだ。
カメオタはワンタッチWifi起動がコンデジみたいで嫌いなようだが、今時Wifiで転送するのだから、私はボタンにアサインすることにしている。
親指AFとかいう馬鹿みたいなボタンアサインよりずっといい。
・バグ
ビデオモードになったまま復帰しない不具合があった。リセットすれば治ったが、ソフトウェアのバグの可能性がある。
・動作
全体的にはキビキビ動く。タッチパネルも良好。
起動終了も不満はない。
ただ画像再生がとても遅い。若干写真の保存も早いとは言えない。SDとの相性もあるとは思うが。
・総合
買いかと言えば、まあ、売れなかっただろうなと思う。
1,500ドル出せばもっといいカメラが買えるだろう。
このクラスのカメラはカメオタかプロに売るものだと思うが、その点の配慮が致命的にない。
アクセサリの不足、シングルスロットで取り出しにくいSDカード、EVFモードでは使えないトラッキング、マウント変更するには安くないレンズ群。
特に問題視するのはSDカード関連の信頼性の低さと交換性の悪さ。
そして何度でも言うが、トラッキングAFがEVFの場合選択できないということ。
トラッキング選択とSDカードスロット蓋の仕様の、この2点だけで聳え立つクソ認定されても文句は言えない。
基本性能はいいのだが、カメオタやプロへの訴求がとても低い。これはパナソニックに酷似している。
パナソニックのカメラも技術的にはニコンよりも良いと思うが、カメオタやプロへの訴求がとても悪い。
かといって、富士やオリンパスのように、女子向けの訴求もなかった(女流一眼は大失敗)。富士フイルムもカメラメーカとしては老舗だったわけだから勝手がわかっていたのかもしれない。
サムスンの失敗は、折角協業したPENTAXからUI関連を学べなかったことにつきる。
カメオタはサムスンがペンタの技術を盗もうとした! と吠えるが、そもそも、ペンタから盗んで有用な技術なんてない。
ミラーレスになった時点で、サムスンがペンタから学べるのはUIデザインだけだったし、そここそ学ぶべきだった。ペンタはUIをころころ変えてきた歴史があるから適任だったろう。
パナソニックもライカを妄信しつつオリンパスを舐めた態度で、折角使い易かったE-330をDMC-L1にしてしまう(L1はとても使いにくいカメラだ)。
そう考えるとソニーはA99IIまできっちりミノルタのUI(A7Dから続く)を墨守し続けたのは英断だった(逆にツァイスに大した神通力がないと見るや、Eマウントの最高グレードはソニーGとした。カメオタはこれを叩くが英断だろ)。
パンピーが買うにしても、今度は高い。16-50とのセットなら2,500ドルだ。