スチルとビデオは昨今は最早融合してしまい、違いは「思想」程度のような気がする。設計思想というのもその一端だろう。
ジンバルを意識していればビデオ、ファインダーにリソースを注いでいるとスチル、みたいなものだ。
これはイスラム原理主義がイスラム教の危機(19世紀のキリスト教徒による植民地支配)によって生まれたように、昔からスチルの思想はあったが、今スチルカメラ存亡の瀬戸際にあって、より顕在化というか思想化していくのではないか?
一番わかりやすいのは一眼レフの伝統的な形状をしていればスチルカメラ、かな?
なんだかんだいっても、光軸上にファインダーがある一眼レフスタイルが使いやすいのは事実だ。
ライブビューが始まる前はスチルとビデオは分離していた。2008年ごろまではライブビュー機能のないデジイチはあった。
一体型でも、ソニーのビデオカメラは大変強く、そこら中で見たし、宣伝もめちゃくちゃ流れていた。
あの頃はコンデジは望遠がゴミだったので、ビデオカメラ主体の人も多かったのではないか。
私も子供が生まれ、カメラを買うとき、ビデオカメラにするかスチルカメラにするか、決めかねたが、現在はそんなことはないのだろう。
だって、廉価なビデオカメラはほぼ滅亡し、スチル(カメラの形状をしたしたもの)カメラを買えばいい。4Kも撮れるし、コンデジの望遠も結構いい。
廉価なビデオカメラ(100万以下)はスチルカメラ(100万以下)に吸収された。
安価なビデオカメラのことをスチルカメラと呼ぶのだ!! そういう時代。
Z9なんかいい例だろう。
ニコンはSONYやキヤノンの数百万のボディ価格のビデオカメラ市場に対抗するために、安価なビデオカメラとしてZ9をリリースしたのだ。メカシャッターレスにしたのだって、コスト削減というよりはビデオカメラ化が目的だろう。
さて、融合するまで、ビデオとスチルは進化の方向が異なっていた。
フイルムを馬鹿食いし、現像作業が多く、被写界深度が求められないことから、ビデオは早くから撮像素子の電子化が進んだ。
CCD搭載の8ミリビデオカメラがソニーから出たのが1985年だ。
それ以前も撮像管である。
少し前まで、狭小空間の撮影などに「CCDカメラを使って撮影」と言っていたが、おそらく、非撮像管ビデオカメラ、つまり、小型カメラのことを指していたと思われる。
記録媒体も、アナログ機器ではあるものの、フイルムは廃され、VHSとなっていた。映画撮影はフイルム時代がもっと長かったが、映画撮影外では早い段階で、電気化(撮像管)、電子化(CCD)された。
一方、一眼において、位相差AFが始まるのが同じ1985年だ。そもそも位相差センサーはCCDだ。
以降、一眼カメラはAFを発展させていくが、フイルムは21世紀になっても使用された。
1985年の段階でCCDは位相差センサーとしてスチルカメラに搭載されていたにもかかわらず、フイルムの時代は以後20年続く。
35㎜撮像素子のコストが高すぎること(TV用の撮像素子は2/3でも十分だった。なぜって? 当時は受信装置がブラウン管だったからだ)と動体AFが必要ないことがそうさせたのだろう。
また当時はコンパクトなリムーバルストレージがフロッピーくらいしかないが、1.5インチでもボディに対して大きく、また、1.2MBでは少なすぎた。まあ、デジタルスチルカメラ+テープドライブがあってもよかったかも(あるかもしれないが)だが。
そういうわけで、ストレージの進化は21世紀まで待たねばならなかった。
また一番大きかったのは、鑑賞性だろう。
スチルは画質が求められた。
実際、いつの時代もプロ用とパンピー用に画質的差異がないのだ。だって同じフイルム使っているんだから(ポジかネガの差はあったかもだが)。
一方、フイルムで撮影された映画と家庭用8ミリではとんでもない画質の差がそこにあった。
先に述べたように家庭では20インチ程度のブラウン管テレビで視聴するが、映画の場合巨大なスクリーンに投射されるのだ。
今でこそ家庭用のカメラでも4Kが撮れるので、以前ほどの差はない。
が当時は、業務用のビデオカメラは巨大で高価だった。スチルはプロ用と家庭用に価格差がほとんどなかったが、ビデオはそうではなかった。
理由はいくつかある。
CCDサイズが違ったし、同じであっても、業務用は三板式だったりしたし、家庭用ビデオカムはそもそもレンズ交換できないものばかりだった。
ニコンのFを使う素人はどこにでもいたが、業務用ビデオカメラを使うやつはいなかった(0とは言わないが)。
今でもそうだが、動画はスマホ画質でみんな満足なのだ。スマホ撮影の素人動画をTVも平気で流す。
スマホよりもいい動画を撮りたい! で一眼を買うやつは私はきいたことがない。
写真を撮りたい! が多い。
だってまあ、動画は面倒だからね。
スマホのが便利よ。
それに動画は画質第一ではなく、半分は音源が重要だし、ぶっちゃけ、「動き」を見たいのであって、「画」を見たいスチルとは違う。
だから「動画推し」は間違っている気がするんだよね。
動画推しの結果は、単に安いビデオカメラ=スチルカメラになるだけでしかない。ニコンがその道を切り開いている。
対抗馬として、ソニーも安価なビデオカメラをリリースしてきている。
単価の安いカメラが売れなくなり、各社高級路線に走っているが、高級路線の行き着く先はビデオカメラだ。高級ビデオカメラが最も単価が高いのだ。
大判デジタルカメラなんてキワモノを除けば、スチルで100万以上するカメラはライカしかない。ライカは性能が悪いので、アート系プロ以外の使用には耐えないので、ないと考えていい。
現在、スチルとビデオを分けているのは思想でしかない。冒頭で言った通りだ。
この思想面で成功している数少ないカメラがある。
GRシリーズである。
GRはPENTAX(交換式部門)と違い、リコーでも好調らしい。
GRはスチルカメラとかこういうもの。スナップシューターとはこういうものを体現している。もちろん中身はビデオカメラと大差ない。
ただ、あの形状や、吐き出す絵の違いこそが、GRをスチルカメラ足らしめている。まさに思想であろう。
リングキャップを交換することでオシャレにもできるが、これもスチルの思想だろう。実用のためというニュアンスの強いビデオカメラを装飾するという話はきいたことがない。
どうしてもジンバルやリグ、外部モニターといった実用的アクセサリが優先される。当たり前だが。
これに対し、スチルで必須なアクセサリがあるだろうか? 場合によっては三脚があるが、三脚は本体のアクセサリとはいいがたい。せいぜいフラッシュくらいか。
このため、ビデオに対しスチルは「装飾する楽しみ」があるといえる。
リングキャップや、ストラップでオシャレするのだ。
富士もTシリーズはレリーズ穴があって、キャップをはめられるようになっている。
細かい部分かもしれないが、この「思想」がスチルなのだ。